マシニングセンタの輸出動向、四半期の動的グラフ(2002年~2021年)
立型と横型マシニングセンタの輸出を可視化
マシニングセンタは、金属切削の用途で最大の輸出金額を誇る工作機械です。また3D積層造形(AM)など、将来組み込まれる可能性がある新しい金属加工技術の開発により、マシニングセンタに対する世界需要が成長し続けると予想できます。この記事では、四半期データの動的グラフを使って、2002年から2021年までの横型と立型マシニングセンタの上位12位の輸出国を追跡します。この動的グラフの操作により、マシニングセンタの輸出市場に関する理解を深めることができます。関係者の皆様はもちろん、マーケティングやビジネス開発、工業材の貿易に携わっている方にもご覧いただければ幸いです。
動的グラフの紹介
図1では、左側に横型のマシニングセンタ、右側に立型のマシニングセンタを表しています。この動的グラフを操作すれば、日本の工作機械メーカーの優位性と同時に、その需要変動に対する高い対応能力が実感できます。また、記事の後半では対象となる80回分の四半期データおよび公の生産、輸出入統計から得た観察を紹介します。
上位12ヶ国、2002年~2021年
2002年Jan月〜Mar月
Country(ISO) | |
---|---|
HMC: | 40 |
VMC: | 60 |
合計: | 100 |
マシニングセンタの種類
マシニングセンタとは、NC旋盤で切削できない加工物(ワークピース)のフライス削り、穴あけ、ねじ立てなどに使用される高度なNC工作機械です。自動工具交換装置(ATC)と工具マガジンを装備し、連続加工が可能です。
マシニングセンタは、切削工具の主軸(Z軸)の向きによって、横型と立型に大別できます。主軸が横になっている横型マシニングセンタ(HMC)と主軸が縦になっている立型マシニングセンタ(VMC)があります。両方のマシニングセンタの典型的な構図は図2のとおりです。

横型(HMC)と立型(VMC)

立型マシニングセンタは、多品種少量生産の現場に向いています。加工物と機械内の洗浄、加工物の正確な取り付けなど、機械操作を担うマシンオペレーターが品質上、重要な役割を果たすため、高い技能が必要となります。工具の主軸を垂直方向に配置することで、精度の高い仕上げ加工が可能であり、機械の設置面積の低減が実現できます。しかし、主軸を工作物の上に配置することで機械が高くなり、剛性の低下を招きます。このため、立型マシニングセンタは重切削に向かないとされています。また、切削面が平面になっているため、切りくずが排出しにくく、工具寿命や仕上げ品質に悪影響を与える可能性があります。
一方、横型マシニングセンタは、連続運転に必要なパレット交換装置(APC)の取り付けがしやすく、稼働時間も長いため、生産ラインに組み込まれることが多いです。切削工具の水平取り付けで仕上げ精度が幾分落ちますが、主軸がコラムの内部に低く取り付けられているため、重切削に必要な剛性が確保できます。また、切削面が垂直で切りくずが機械の底に自然に落ちるため、横型マシニングセンタは大量生産の現場に最適です。
特徴 | 横型 | 立型 |
---|---|---|
オペレーターの技能水準 | 低い | 高い |
稼働時間 | 高い | 低い |
重切削向き | 高い | 低い |
仕上げ向き | 低い | 高い |
設置面積の低減 | 低い | 高い |
切りくず処理能力 | 高い | 低い |
特徴 | 横型 | 立型 |
---|---|---|
オペレーターの技能水準 | 低い | 高い |
稼働時間 | 高い | 低い |
重切削向き | 高い | 低い |
仕上げ向き | 低い | 高い |
設置面積の低減 | 低い | 高い |
切りくず処理能力 | 高い | 低い |
特徴 | 横型 | 立型 |
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オペレーターの技能水準 | 低い | 高い |
稼働時間 | 高い | 低い |
重切削向き | 高い | 低い |
仕上げ向き | 低い | 高い |
設置面積の低減 | 低い | 高い |
切りくず処理能力 | 高い | 低い |
調査方法と範囲
この記事で紹介するデータは、6桁HSコードである845710[1]のマシニングセンタのみです。ユニットコンストラクションマシン(シングルステーション)とマルチステーショントランスファーマシンが対象外です(表2参照)。元データは月次ベースですが、平滑化のため、四半期データに換算しています。通貨は米ドルの平均レートが適用されます。香港のデータは中国のデータに含まれています。
HSコード | 機械名称 |
---|---|
845710 | マシニングセンタ |
845720 | ユニットコンストラクションマシン |
845730 | マルチステーショントランスファーマシン |
HSコード | 機械名称 |
---|---|
845710 | マシニングセンタ |
845720 | ユニットコンストラクションマシン |
845730 | マルチステーショントランスファーマシン |
HSコード | 機械名称 |
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845710 | マシニングセンタ |
845720 | ユニットコンストラクションマシン |
845730 | マルチステーショントランスファーマシン |
月次データが欠けている国や期間に関してはミラーリング[2]を実施しています。一部の政府機関は、門型のマシニングセンタを個別に報告しています。これらは、Z軸の垂直方向に基づいて立型マシニングセンタ(VMC)に含まれました。門型は、金額で立型輸出の10%を超えません[3]。
調査の対象期間は2002年から2021年までの20年間です。動的グラフには、各四半期の上位12ヶ国が表示されます。全体では次の18ヶ国が上位12位に少なくとも一度登場します。日本(JPN)、ドイツ(DEU)、台湾(TWN)、アメリカ(USA)、韓国(KOR)、イタリア(ITA)、ベルギー(BEL)、スイス(CHE)、イギリス(GBR)、オランダ(NLD)、チェコ共和国(CZE)、シンガポール(SGP)、フランス(FRA)、中国(CHN)、スペイン(ESP)、オーストリア(AUT)、ブラジル(BRA)、ポーランド(POL)です。
市場占有率
2021年には、上位3ヶ国がマシニングセンタ輸出の約71%を占めました。日本が約36%、ドイツ23%、台湾12%といった具合です。図2は、急激な需要増加下でも、同3ヶ国の競争力はあまり影響を受けないことを明確にしています。例えば、世界のマシニングセンタ輸出は2002年から2012年に掛けて4倍に増えましたが、主要3ヶ国のシェアは64%と73%の間に推移しただけです。対照的に、アメリカ、イタリア、スイス、韓国は上位12位以内を維持しながらも順位が頻繁に入れ替わります。
〜市場規模と市場占有率〜
日本はマシニングセンタの主要輸出国です。そのマシニングセンタのメーカーは、研究開発に多額の投資をし、マシニングセンタ最大の輸入国である中国を筆頭に、急成長するアジア経済圏が近い立地のよさを生かせています。
ドイツは、マシニングセンタの第2位の輸出国です。ヨーロッパの大規模な先進経済とその大企業の要求によって育まれた高い技術力で、ドイツのメーカーは多くの国において足掛かりを作り、その高いブランド力で輸出市場を広げてきました。
台湾は、マシニングセンタの第3位の輸出国です。アメリカやドイツを含む多数の先進国に輸出しています。台湾の中国への輸出は、両国の複雑な政治関係の影響を受ける形になります。
立型と横型の主要輸出国
立型マシニングセンタは、輸出全体の3分の2を占めます。日本は立型マシニングセンタの最大輸出国であり、本調査対象80回分の四半期中、60回の四半期で首位を獲得しています。時としてドイツと台湾の2倍以上輸出しています。台湾は80回分の四半期中、15回で立型マシニングセンタの輸出の首位になり、残りの5回ではドイツがトップです。
横型マシニングセンタは、輸出全体の3分の1を占めます。日本とドイツは、横型マシニングセンタを多用する自動車製造業界にて優位に立っているため、横型マシニングセンタの最大輸出国になっています。日本は63回分の四半期で横型輸出の首位を維持しており、残りの17回はドイツがトップです。韓国は、立型マシニングセンタより横型マシニングセンタの輸出が一貫して多く推移している唯一の国です。
需要変動
立型マシニングセンタの需要は、横型マシニングセンタに比べて非常に不安定です。この不安定さの多くは、中国の輸入需要の大きな変動に由来します。横型マシニングセンタの最大顧客である自動車産業向けの需要は比較的安定しているため、横型機の需要も安定した軌道を描きます。日本の工作機械製造業界は需要の変化に迅速に対応するため、同マシニングセンタのメーカーも、中国の急激な需要増加の際、俊敏に対応できます。そういう風に販売台数を伸ばせた経緯があります[4]。
付加価値(トン当たりの価格)
ドイツ製マシニングセンタのトン当たり輸出価格は最高です。スイスと日本製がそれに続きます。韓国と台湾製の機械は、日本と比較してトン当たりで30%~40%安くなります。また、ドイツの横型機は、立型機に比べてトン当たりの輸出価格が高くなっています。しかし、日本では立型機の方が高いです。
輸出国、輸入国、流通国
上位12位の輸出国は、そのマシニングセンタの対外貿易の性質に基づいて、純輸出国、純輸入国、または流通国として見ることができます。この記事の動的グラフで登場する18ヶ国のうち、2021年12月現在、日本、ドイツ、台湾、韓国、スイス、シンガポール、イギリスとオランダが純輸出国です。イギリスの貿易黒字[5]は20%未満、オランダは10% 未満、他の6ヶ国は60%を超えています。
残りの10ヶ国は、マシニングセンタの純輸入国です。中国、アメリカ、オーストリア、ブラジルの貿易赤字は100%を超えています。加えてイタリアとスペインは30%未満ですが、他の4ヶ国は40%~70%の範囲です。
ベルギーとオランダは、現地生産がないため、マシニングセンタの流通国としての性質です。 前述のように、オランダの貿易黒字は小さいです。そしてベルギーの輸入額は、オランダとほぼ同じです。しかし、その輸出額は半分しかないため、貿易赤字が約70%になります。 シンガポールは流通国として機能していましたが、現在は現地生産している海外メーカーのおかげでマシニングセンタの貿易黒字に転換しています。
まとめ
マシニングセンタは、フライス削り、穴あけ、ねじ立てなどに使用される高度なNC工作機械です。日本、ドイツ、台湾が立型マシニングセンタの上位3位の輸出国であり、立型機輸出の約70%を占めます。日本とドイツは、横型マシニングセンタの主要な輸出国であり、全体の72%を占めます。また3D積層造形(AM)など、将来組み込まれる可能性がある新しい金属加工技術の開発により、マシニングセンタに対する世界需要が成長し続けると予想できます。
注記
- このHSコードには予備品と付属品が含まれていません。ただし、中古機は含みます。
- ミラーリングとは、貿易の相手国から報告された輸入額を割り引いて輸出額を算定する方法です。割引率は、輸入額のCIFベースと輸出額のFOBベースの相違を表します。国によって異なっており、本記事で5%と10%の二段階が適用されます。
- 日本の生産と輸出のデータに基づいて推定。
- 2021年の工作機械受注台数と生産実績の相関性は、日本では0.84、ドイツでは0.61でした。
- 貿易黒字率は、輸入額をFOBベースに換算した上、「(輸出 – 輸入) / 輸出」として計算されます。