金属切削加工とインタラクティブな要素を持つ画像

(著)G. インウッド2022年5月25日

(著)G. インウッド2022年5月25日

日本とドイツの金属切削型工作機械の輸出動向

インタラクティブな方法で業界研究

工作機械業界は、自動車、一般機械、航空機、エレクトロニクスの各分野における技術革新、生産性向上、経済成長に大きく貢献しています。この記事では、貿易統計の時系列データを使用して、6種類の金属切削型工作機械の主要輸出国を特定し、同市場を支配する日本とドイツの競争関係についても検証します。その過程で次のインタラクティブなチャートを作成しました。

【この記事について】

工作機械業界の2010年から2020年までの動向についてご興味があれば図1と図2をご覧ください。また、ドイツと日本の工作機械業界に関心のある方は、図3と末尾の調査結果をご確認ください。

この記事の対象は、工作機械業界向けの装置やユニット製造に関わっているマーケティング担当の方がメインとなりますが、その他の方でも業界の現状把握に役立っていただければ幸いです。

金属切削型工作機械の種類

金属切削型工作機械は、世界の工作機械生産の約75%を占めます。工作機械は切断や研削によって加工物から余分な材料を除去するために使用します。代表的なものとしてマシニングセンタ、旋盤、ボール盤、研削盤、歯車切削盤などがあります。レーザー加工機、イオンビーム機、超音波加工機、放電加工機(EDM)、積層造形用3Dプリンタなどの特殊機械も通常、金属切削加工の工作機械に分類されます。

半面、世界の工作機械生産の残り25%は、第二次金属加工機械が占めます。この種類の代表的な機械として、機械プレス、油圧プレス、せん断機、ベンディングマシンがあります。これらはスタンプやロール、曲げ加工などにより材料を完成した形状に成形します。

調査方法と範囲

表1に調査の対象となる6種類の金属切削型工作機械のHSコード[1]を列挙します。調査の対象期間は2010年から2020年までの11年間です。比較のために、米ドルの平均年間レートが適用されます。対象国は、中国(CHN)、日本(JPN)、ドイツ(DEU)、韓国(KOR)、イタリア(ITA)、米国(USA)、台湾(TWN)、スイス(CHE)、オーストリア(AUT)、スペイン(ESP)、インド(IND)[2]で、2020年時点で上位11ヶ国の工作機械生産国になっています。

表1:金属切削加工の工作機械関連HSコード
HSコード説明
8456特殊機械(EDM、レーザー加工機、3Dプリンターなど)
8457マシニングセンタ、トランスファーマシンなど
8458旋盤(ターニングセンタを含む)
8459ボール盤、中ぐり盤、フライス盤など
8460研削盤、ホーニング盤、バリ取り機など
8461歯切り盤、歯車仕上げ機械など
HSコード説明
8456特殊機械(EDM、レーザー加工機、3Dプリンターなど)
8457マシニングセンタ、トランスファーマシンなど
8458旋盤(ターニングセンタを含む)
8459ボール盤、中ぐり盤、フライス盤など
8460研削盤、ホーニング盤、バリ取り機など
8461歯切り盤、歯車仕上げ機械など
HSコード説明
8456特殊機械(EDM、レーザー加工機、3Dプリンターなど)
8457マシニングセンタ、トランスファーマシンなど
8458旋盤(ターニングセンタを含む)
8459ボール盤、中ぐり盤、フライス盤など
8460研削盤、ホーニング盤、バリ取り機など
8461歯切り盤、歯車仕上げ機械など

元データは、ドイツ工作機械工業会(VDW)の年次市場レポート「Market Report」で発表した工作機械生産統計です。この元データに、金属切削加工系が全体に占める比率を適用して本調査の金属切削型工作機械の生産データを生成しています。尚、適用する比率は政府の生産調査、受注情報、貿易統計など入手可能な最も関連性の高い統計から算出しています。

金属切削型工作機械の生産動向

金属切削型工作機械の利用者は世界中に散らばっていますが、生産は中国、日本、ドイツの3ヶ国に集中しています。この3ヶ国が世界生産の約61%を占めます。更に、韓国、イタリア、米国、台湾、スイスの5ヶ国からなる第2のグループが約29%を占め、オーストリア、スペイン、インドの第3のグループが約4%を占めるため、上位11ヶ国が金属切削型工作機械の生産の約94%を占めることになります。図1はこれら3グループの生産量をグラフ化したものです。実際のデータは表2を参照してください。

図1は、最初にグループ1の国(中国、日本、ドイツ)を表示しています。下部ボタンのいずれかを選択すれば、表示されるグループが変更できます。表2では表示中のグループの実数データがハイライトされます。

中国は金属切削型工作機械の最大生産国で、生産が二分化しています。通常の地場企業は国内で多く消費される低性能の設備を生産し、外資系企業と有力中国企業は外資系企業の現地工場が使う高性能設備を生産しています。しかし、中国の工作機械需要の伸びは鈍化しており、外資系メーカーは賃金のより低いASEAN諸国に生産設備を移し始めています。

日本とドイツの生産レベルはほぼ同じで、両国は工作機械生産の大部分を輸出しています。例えば、2020年にドイツは生産の71.5%を輸出し、日本は61.9%を輸出しました。ちなみに同年、ドイツは生産の21.7%に相当する金属切削加工の工作機械を輸入し、日本はわずか6.5%しか輸入していません。

工作機械業界は、経済見通しの変化や通貨の動き、地政学的な対立などにより、需要が内外急激に変動することがあります。しかし、技術習得の困難や長年の顧客関係などの参入障壁により、市場シェアに変化が生じることはめったにありません。例外はインドで、まだ規模は小さいものの、自動車産業とエレクトロニクス産業の発展により、第2のグループに進む可能性を秘めています。

金属切削型工作機械の輸出動向

図2は日本とドイツの金属切削型工作機械の輸出における優勢を物語っています。ドイツは金属切削型工作機械の最大輸出国であり、全6種類の機械の輸出において1位もしくは2位を占めているのに対し、日本は2種類の機械の輸出で大佐をつけての1位です。

図2は、最初に2010年のマシニングセンタの輸出入を表示しています。上部のボタンをクリックすれば異なる種類の機械が選択できます。表1で紹介したHSコードごとにボタンを設けています。また、下部のスライダーを動かせば年を変えることができます。

図2の結果に基づいて金属切削型工作機械の輸出について次の動向が認められます。

表3は、日本とドイツの2020年の輸出実績をまとめたものです。

表3:日本とドイツの2020年の輸出実績
種類HSコード輸出総額DEU→世界JPN→世界
マシニングセンタ8457$63.38億27.5%31.6%
旋盤8458$41.45億19.1%28.0%
ボール盤8459$19.57億26.2%6.7%
研削盤8460$28.10億29.0%20.5%
歯切り盤8461$16.87億32.0%12.2%
特殊機械8456$49.96億19.2%17.7%
種類HSコード輸出総額DEU→世界JPN→世界
マシニングセンタ8457$63.38億27.5%31.6%
旋盤8458$41.45億19.1%28.0%
ボール盤8459$19.57億26.2%6.7%
研削盤8460$28.10億29.0%20.5%
歯切り盤8461$16.87億32.0%12.2%
特殊機械8456$49.96億19.2%17.7%
種類HSコード輸出総額DEU→世界JPN→世界
マシニングセンタ8457$63.38億27.5%31.6%
旋盤8458$41.45億19.1%28.0%
ボール盤8459$19.57億26.2%6.7%
研削盤8460$28.10億29.0%20.5%
歯切り盤8461$16.87億32.0%12.2%
特殊機械8456$49.96億19.2%17.7%
注:輸出総額は上位11生産国の合計

日本とドイツ 2 国間の競争

日本とドイツは、高性能工作機械の最大生産国と最大輸出国として世間に認められています。この節では、日本とドイツの競争力を測る上で、互いの国内市場にどの程度浸透したかを見ていきます。図3は、ドイツと日本の全体の輸入と、2国間の輸入を示しています。2国間の実数データが表4にあります。

図3は、最初に日本とドイツのマシニングセンタ全体の輸入と、日本とドイツのマシニングセンタ2国間の輸入を表示しています。上部のボタンをクリックすれば別の種類の機械が選択できます。下部のラジオボタンを切り替えれば2国間だけのデータに絞り込めます。尚、表4では表示中機種の2国間実数データが表示されます。
表4:日本とドイツ2国間のマシニングセンタの輸入[百万米ドル]
出典:貿易統計

図3の結果に基づいて金属切削型工作機械の日本とドイツ2国間輸入について次の動向が認められます。

表5では、2020年時点での日本とドイツの輸入に対する相互依存をまとめました。

表5:日本とドイツ2国間の輸入[2020年現在]
種類HSコード輸入総額DEU→JPNJPN→DEU
マシニングセンタ8457$127.0百万69.1%18.3%
旋盤8458$72.4百万1.7%19.8%
ボール盤8459$5.4百万28.6%0.7%
研削盤8460$17.1百万15.2%1.2%
歯切り盤8461$11.8百万16.9%2.0%
特殊機械8456$103.1百万31.9%12.2%
種類HSコード輸入総額DEU→JPNJPN→DEU
マシニングセンタ8457$127.0百万69.1%18.3%
旋盤8458$72.4百万1.7%19.8%
ボール盤8459$5.4百万28.6%0.7%
研削盤8460$17.1百万15.2%1.2%
歯切り盤8461$11.8百万16.9%2.0%
特殊機械8456$103.1百万31.9%12.2%
種類HSコード輸入総額DEU→JPNJPN→DEU
マシニングセンタ8457$127.0百万69.1%18.3%
旋盤8458$72.4百万1.7%19.8%
ボール盤8459$5.4百万28.6%0.7%
研削盤8460$17.1百万15.2%1.2%
歯切り盤8461$11.8百万16.9%2.0%
特殊機械8456$103.1百万31.9%12.2%
注:輸入総額は日本とドイツ2国間の合計

表5に照らして、ドイツと日本の金属切削型工作機械の技術競争力について、以下のように概括できます。

まとめ

日本とドイツは、工作機械の産業において異なる成長戦略を採用してきました。どちらも輸出本位ですが、日本は伝統的に参入しにくい市場とされており、内需のほとんどは国内生産によって賄われています。対照的にドイツは国内生産の大部分を輸出し、国内需要を満たすには国内生産と輸入品がともに重要な位置付けを占めます。この異なる戦略を実施した結果、日本はマシニングセンタと旋盤の輸出において世界を大きくリードするようになり、ドイツは全ての種類の機械の輸出において上手に立ち回って高成績を収めています。

注記

  1. HSコードとは世界共通で使われる輸出入する品目のための分類番号です。この調査の対象となるHSコードには予備品と付属品が含まれていません。
  2. インドは12位の生産国でその潜在的な成長力を見越して11位のフランスの代わりに採用されました。